Monday, July 10, 2006

ES細胞を使った研究

遺伝子病の患者の核を移植したntES細胞を用いると、この細胞を適切に分化させることで、患者と同じ表現形質を持った体細胞を生検を回避して多量に得ることができるようになる。このような体細胞は、病因の研究や薬剤のスクリーニングなど治療法の開発に有用である。

ES細胞を用いた再生医療

ヒトES細胞を用いた再生医療は、現時点ではまだ開発中であり実現はされていない。
ES細胞を再生医療に応用するためには、まずES細胞をある特定の細胞に分化させなくてはならない。これについては、神経細胞や膵臓ベータ細胞などに効率的に分化させる方法が盛んに開発されている。その上で、分化した細胞を選択後、移植することになる。例えば糖尿病患者に対してインスリンを分泌する膵臓ランゲルハンス島(膵島)ベータ細胞に相当する細胞をES細胞の分化によって得て移植するという操作が必要となるが、主要組織適合抗原(MHC)が患者とES細胞の材料となった受精卵とで異なる事が大半であるために、移植しても拒絶されるという問題点がある。

ES細胞の倫理問題 日本

日本においては限定的に認められている。米国においても、公的研究費を用いない形での研究がハーバード大学幹細胞研究所などで行われているほか、カリフォルニア州においては、アーノルド・シュワルツェネッガー知事が認める方向を打ち出すなど大きな社会的議論になっている。また、受精卵を用いるES細胞の新たな作製を回避するために、次の項に述べるような方法も開発されている。

ES細胞の倫理問題

ES細胞を樹立するには、受精卵ないし受精卵より発生が進んだ胚盤胞までの段階の初期胚が必要となる。ヒトの場合には不妊治療の際に採取される受精卵が材料となりうるために倫理的な論議を呼んでいる(一般的に、卵子が受精して発生を開始した受精卵以降を生命の萌芽として倫理問題の対象となると見なしている)。

先進国においては、例えば米国のブッシュ政権が2001年8月に公的研究費による新たなヒトES細胞の樹立を禁止している様に、いずれヒトになりうる受精卵を破壊する事に対する倫理的問題から現段階でのヒトES細胞の作製を認めない国がある一方、パーキンソン病、脳梗塞、糖尿病など根治の無かった疾患を将来的に治療できる可能性から、その研究を認める国など対応が分かれている。

胚性幹細胞の製法

その製法は受精卵が胚盤胞と呼ばれる段階にまで発生したところで取り出して、フィーダー細胞という下敷きとなる細胞と一緒に培養をすると、内部細胞塊が増殖を始める。この内部細胞塊は将来的に全身の組織に分化してゆく細胞集団である。増殖した内部細胞塊由来の細胞をばらばらにしてフィーダー細胞に植え継ぐ操作を繰り返し、最終的に「ES細胞株」を作成する。マウスの場合にはLIF(leukemia inhibitory factor: LIF)という分化抑制因子を加える。一方、ヒトES細胞株の場合には「フィーダー細胞」は必要だが、LIFは必要ないとされる。いづれにしても、自発的に分化しやすい細胞であり、全能性ES細胞の状態を保ったままの継代には非常に注意を要する。ES細胞であることを示すマーカーには、Oct3/4, STAT3, Nanogなどの遺伝子の発現がある。

胚性幹細胞

胚性幹細胞(はいせいかんさいぼう、Embryonic stem cell: ES細胞)とは動物の発生初期段階である胚盤胞の一部に属する内部細胞塊より作られる幹細胞細胞株のこと。生体外にて、理論上すべての組織に分化する全能性を保ちつつほぼ無限に増殖させる事ができるため、再生医療への応用に注目されている。またマウスなどの動物由来のES細胞は、培養細胞の遺伝子に様々な操作が可能であり、更にそれを胚に戻すことで、生殖細胞を含む個体に参加させることができる。このことを利用して特定遺伝子を相同的組み換えにより個体レベルで意図的に破壊したり(ノックアウトマウス)、マーカー遺伝子を自在に導入したりすることができるので、基礎医学研究では既に広く利用されている。